ECインタビュー【財部 實昭】
いかなる時でも「本音」で「正直」に関われる環境を創りたい
財部さんが提供するエグゼクティブコーチングの特徴はどこにありますか?
私が担当するコーチィ(コーチングを受ける人)はエグゼクティブの方が多いので、経営知識、ピープルマネジメントから個人的な悩み(健康、家族、ストレスへの対応法など)まで、幅広い分野での対応が求められています。通常のコーチングでは「答えはコーチィが持っている」との考えから、コーチは積極的な発言は控える傾向にありますが、私が実施するエグゼクティブコーチングでは、それだけでは不十分だと考えています。コーチィ本人が自分で答えを見出すということが前提ですが、立場上多くの時間を割くことができないことはわかっていますので、コーチィと組織にとっても最も効果的と思われる示唆を提供することはたくさんあります。時には考え方の「原理原則」をアドバイスすることも重要ですし、提案も求められれば積極的に対応します。
また私の場合、永年AMAのトレーナーとしての経験があります。AMAのプログラム内容にはマネジメントのノウハウが詰まっていますので、その要素をコーチィのニーズに合う形で伝えることもあります。
エグゼクティブコーチングはそれまで成功した人や、有能でエグゼクティブになった人が対象です。こうした人たちは何をきっかけに変わるのでしょう?
エグゼクティブコーチングはそれまで成功した人や、有能でエグゼクティブになった人が対象です。こうした人たちは何をきっかけに変わるのでしょう?
いかなる成功者、あるいは有能なエグゼクティブであっても弱点や課題はあると思っています。逆に、「自分は全く弱点も課題もない」と言う方は、自ら自己成長の機会を逃しているのだと思います。スポーツの世界でも同じだと思いますが、プロの選手は自分のパフォーマンスを上げるために良いものは何でも取り入れようとしますよね。ビジネスも同じです。問題解決に役立つ資源がこのコーチだと思ったら、経営者やその候補にもなるような優秀な人であれば耳の痛いことでも聞くものです。
エグゼクティブコーチングで相手に行動変容を起こしてもらうためには、コーチィのニーズを聞いて、それに合ったもの、その人に必要だと考えられるものをいかに与えられるかどうかだと思うのです。
たとえばコーチィと会話をする中で、当初は今回のコーチングのテーマとして予定していなかったけれど、「人前で話をする能力をもっと上げたほうが良い」と感じた時は、プレゼンテーションスキルを急遽入れます。
エグゼクテイブコーチングでは時にはメンタリング、時にはカウンセリングの要素が入るなど、その場に応じて使い分けできる幅を持っていることが大事だと思います。経営者であるコーチィにとって何が一番必要か、そこにフォーカスできる柔軟性を持っていれば、最終的にはそのエグゼクティブを動かす要因になるのだと思います。余談ですが、私は自分の経験を共有する際には、ストーリー性をもって話をするように意識しています。ストーリーであれば人の心に残るからです。
コーチィとは事前に面談するのでしょうか?会社からの依頼でも、コーチィから拒絶されたことはないですか?
コーチングを依頼してきた上の人とコーチィと、その両方と事前に面談します。おっしゃる通り、エグゼクティブコーチングの場合は会社がこのエグゼクティブを変えたい、変わってほしいと思って話が来ることが多いので、最初はコーチィ本人に拒絶されることもあります。ただ、面談をした後、コーチングに繋がらなかったケースはほとんどありません。
ある日系企業で工場長のコーチングを頼まれた時のことです。その会社の会長と社長に面会して、将来の取締役に考えている人材なのだけれど、問題は自分がこの会社内で一番優秀だと思っていて、他の人の意見を聞かないのだと。だからもっと謙虚になって欲しいのだと言われていました。
本人と最初のインタビューは当然「なぜ自分がこれを受けないといけないのですか?」からスタートしました。その時、私は「それではコーチングはやめましょうか?」と伝えました。会社はあなたに問題があるから、このお医者さんに診てもらいなさいと言っているのに、医者の前で「どこも悪くない」とご本人が言われるなら、見る必要がないと思うのですがと伝えました。その言葉を受けて初めて、彼は自分自身を見つめることを始めたのです。それまでの彼は、私が彼の敵で、自分が何か間違っているから会社からこの人が指名を受けて来たと思っていたのです。ところがそうではなくて、本当に自分が良くなるために関わってくれるのだと認識した時に、彼の態度はガラッと変わりました。
最初は抵抗しても、自分や自分の仕事を良くしたいという想いは皆さん一緒なので、少しくらい厳しいことを言われても受け取ってもらえるのです。
「先入観」「偏見」なしにコーチィと関わらなければ、彼らの「現在の状態」を正確に観察・把握することは出来ない
私はコーチングをスタートするにあたり、コーチィ本人からの課題を抽出し、私ならではの「カスタムメード」のコーチングプログラムを作成します。上司がいる場合は上司からの要望も反映させてプログラムを提案します。EC終了時に両者の課題が解決または改善され、その結果、コーチィの組織全体への肯定的影響力が高まるように努めています。
あなたがエグゼクティブコーチとして、コーチィと関わる上での信念、気を付けている事はありますか?
いかなる時でも「本音」で「正直」に関われる環境を創ることです。
またコーチィとの信頼関係を築くため守秘義務は必ず守ります。たとえ上司への報告が必要であっても、伝えるべきこととそうでないことに対して、非常に配慮します。
さらにコーチィから出される質問、相談には極力その場で答えるようにしています。答えが出せないことに関しては、その後電話、メール等で必ずフォローします。このようにしてエグゼクティブコーチングの有用性に納得してもらうことも重要ですので。
そして、何よりも大切にしている事は、「先入観」「偏見」なしにコーチィと関わることです。これは、コーチとして非常に難しい点でもありますが、でもこれなしにはコーチィの「現在の状態」を正確に観察し把握することは出来ないと思うのです。「Here & Now」でニュトラルに関わることが、エグゼクティブコーチとして最も重要な資質とスキルだと考えています。
これからのトップエグゼクティブに求められる能力・資質は何だと思われますか?
まずは社内外で「肯定的影響力」を高める能力を身に付けることです。
この「肯定的影響力」はAMAの研修の中にも出てくるのですが、リーダーはリーダーシップを発揮する上で否定的な影響力を与えることもあります。ただ、人が育って結果を出すには、リーダーが肯定的に影響力を与え、やる気を起こさせたりするなど、行動が変わるきっかけを作る必要があります。エグゼクティブコーチングを受ける人であっても、必ずしもこのような「肯定的影響力」を持っているとは限りませんので、コーチングを受けた結果、自分の中で今まで使っていなかったよりポジティブなものを使っていこうということに気づいて、周りに影響力を与えることが必要だと思うのです。
2つ目は、個人・組織の「変えるべき点」と「変えてはいけない点」が明確に区別出来る能力があることです。組織にとって望ましくないトップエグゼクティブは「変えるべきことを変えず」「変えてはいけないことを変えてしまう」という間違いを犯かすことです。その結果、個人と組織の生産性を著しく低下させ、望む成果を生み出せない結果になるだけでなく、エグゼクティブ自身のプライドと、組織で働く人達のモチベーションを奪ってしまう結果になります。
そして3つ目に、「Take a Stand」です。これは、"流れに流されずに立つ"という意味です。あなたがこの会社の間違った流れを変えようと思わない限り、会社が変わることはない、という逆説的な意味合いもあります。
そして、目的・ビジョンからぶれないリーダーとして職務を実践すること、本人の信念(エゴではなく)に基づいて組織に関わる能力が必要です。